昏睡から目ざめると、思いだすのは昏睡以前の眠りに就くときのこと、つまり一ヶ月以前の就眠時を昨夜のことのように思いだす。その間一ヶ月が経過しているなどゝは、どうしても信じることができない。
私はこのようにして、浦島次郎の実存を確認し、甚しく、気が強くなった。又、疲れたら、あそこへ旅行して、睡らせて貰ってこようや。
だいたい、深夜のメイ想などゝいう神代的遺物は、当節、やめた方がよろしい。
医師法というものがあって、拙者が人助けのために精神病院を開業することができないのは実に残念至極である。風光明媚なる適地に、バンガロー風の病院をたて、ベッドにねむれば星が見える。ねむれば、なんにも、見えないがね。職業意識が燃え立つせいで、宣伝文の要領が、ミューズとなって発現するのである。さて、このバンガローに、睡眠旅行ホテルというような名前をつける。精神病院という名前はよくないからね。新聞へ広告をだす。モロモロの疲れたる近代人よ、というような呼びかけはチンプかな。みんな浦島次郎にして、すこやかに帰す。星を眺めて、やがて昏々と睡り、一ヶ月、目をさませば星がある。その間に戦争があろうと地震があろうと、吾関
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