のだろうか。だから近代に於てもメシヤが必要であり、それはお助け爺さんやジコーサマではない。つまり健全でなければならぬ。よって、迷える者、疲れたる者は、カストリ屋でトグロをまかずに、まっすぐ精神病院へ旅行すべきである。これこそ、近代の神殿、神の慈悲は、迷える者、悲しく疲れ果てたる者を、昏々と一ヶ月ねむらせてくれる。
深夜のメイ想などと、浅慮な言を発してはならぬ。なんたる不健全なヤカラであるか。白足袋の首相の如く、余も亦、汝らを叱るぞよ。健全。健全。浦島次郎となるや、真理は自ら明々白々となるのである。
先ず、急を要することは、全国の風光明媚なる高原に、海浜に、幾千万の精神病院をつくることである。国家的な大事業であり、疲れたるヤカラをみんな送る。看護婦もたくさんいるし、輸送も大変、催眠薬の製造も忙しい。睡眠省とか、睡眠大臣というものが必要であり、初代の大臣は私がならなければならないだろう。私がこんな心配をしなければならないのも、深夜のメイ想などという不健全な古典的言辞を弄する精神|匪族《ひぞく》が残存しているせいである。
底本:「坂口安吾全集 07」筑摩書房
1998(平成1
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