の文句じゃないが、人をなめるもんじゃないぜ。こっちが結婚しましょうと云えば、こうして時々遊びましょうとくる。それは、そうさ。月水金は洋裁の課長さん、土日は部長さん、火木は伊東さん、それじゃア結婚できねえやな。部長さんと洋裁の課長さんは大阪と北海道へ島流しになる、伊東さんにはふられる、そこでコチトラの方へ風向きが変ってきやがっても、そうはいかねえよ。へん、男なんて、まったく、みんな、そんなものさ。コチトラも伊東さんも、おんなじ考えなんだから、今更人をコバカにして結婚しようなんて言ったって、クソ、ふざけやがると、ドテッ腹を蹴破って、肋骨をかきわけて、ハラワタをつかみだしてくれるぞ」
 ビヤダル型のオジサンはめったに怒らぬものであるが、いざ怒ると、汗が流れて、湯気が立つ、ユデタコのようにいきりたって壮観である。
 キヨ子もちょッと気まずい顔だ。
「そうお」
 そして、
「じゃア、帰るわ」
 立って、草履をはいた。
「じゃア、又、ね」
 無邪気なもの、ニコニコしていた。
「又、くるわ」
 そして、帰ってしまった。
 へん、オタフクのバケ猫め、二度ときやがると、承知しねえぞ、という奴を、幸吉は呑
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