私の主人、とてもやさしい、物分りのいゝ人だったわ」
「洋裁の日は何曜日なんだい」
「月水金だけど、もう行かないのよ。以前は月金で水はなかったけどね」
「やれやれ、月水金は洋裁の課長さん、土日は部長さん、火木は伊東さん、それじゃお前、七日のうち、七日ながらノべツじゃないか。お前の御主人は何かえ、ノベツ女房が課長さんや部長さんや伊東さんとアイビキしても怒らないような人だったかい」
 キヨ子は少し顔色を失ったが、すぐ又、なんでもない顔色になった。
「未亡人なんて、色々噂をたてられて、つまらないわ。自分がモノにしようと思ってモノにならないと、復讐から、言いふらすのよ」
「モノにした人が言ってることだから、間違いなしさ」
「じゃア、もう帰るわ」
 と、キヨ子は立ちかけるようなことをして、又、のみもしないお茶をいれた。
「伊東さんはヤキモチ焼だから、疑ぐり深いのよ。男の人はオメカケやなんか、あるでしょう。私、マジメな方よ。でも、時々は仕方がないわ。そうかなア、男の人って、みんな、そんな風に考えるかしら」
 意味のハッキリしないことを言って、クビをかしげる。
「おい、ふざけちゃ、いけないよ。伊東さん
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