外の一つの話題も持ち合せず、それ以外に関心がないのである。
「お前はなにかえ、死んだ亭主と幸福だったてえけど、どんな風に幸福だったんだ」
「毎日、幸福だったわ」
「毎日、なんだな、あんなこと、やってたというのだろう」
「そら、そうよ。毎日々々よ」
幸吉は腹の中でゲタゲタ笑った。これで正体がわかったというものだ。彼はもうあんまり徹底的に女を軽蔑しきっているので、自分でも面喰ったほどであるが、同時に荒々しい情慾がわき起って、情念の英雄豪傑というような雄大な気持になった。
そこで彼は征服にとりかゝる。侵略でもある。キヨ子の前夫を退治るという意気込みであった。
自らも驚くほどの逞しい情慾であったが、キヨ子の情慾はさらに執拗であった。幸吉の胸の下につぶれたような断髪があって、さゝやきもとめ、うながしても、幸吉はもう徒らに蒸気のような息をふいて汗みどろに、うごめくばかり、全然だらしのないビヤダルであった。
「主人は病身だったのよ。だから、よく会社を休んだわ。けれども、あの方のエルネギーは別なのよ。病気で会社を休んでも、昼一日私をはなしたことがないのよ」
幸吉は疲れきってかすんだ耳にキヨ子の
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