できあがる。
「会社にゴタゴタがあって、ちかごろみんな仕事に手がつかないのよ。私の部の部長と課長も大阪支店と札幌支店へ左センされるでしょう。私、もう、会社やめるかも知れないわ」
「やめたら、食うに困るだろう」
「あら」
 キヨ子はすり寄ってきて、幸吉の肩に断髪をもたせかけて、
「独身生活もノンビリと面白いでしょう。二号だの三号のところへ時々通うなんて、いゝわねえ。二号さんと三号さんと、どっちが可愛いゝの」
「同じようなものさ」
「でもよ、少しは違うでしょう。若い方? 年増の方? 私も若くなりたいわ。二十七八になりたいわね。そのころは、私たち幸福だったのよ。主人がとてもいゝ人だから。私、今日は、ねむいわ。すこし、ねむって、いゝでしょう。おフトンは、こゝね」
 とキヨ子はおフトンをひっぱりだす。まるでもう女房のように馴れ/\しい。
 幸吉は腹の中ではフンという顔をしていた。あさましいほど、たしなみがない。幸吉をなめきっている。幸吉は無学だが、男女の交りにも情趣がなければと思っているが、この女は、あんなことイヤだとか、主人に悪いとかと、そればかり言いながら、男と女の関係に就ては、アンナこと以
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