敷をぶらぶらと、然し、こうふとっちゃ、ビヤ樽みてえなものだから、ムリでさア。失礼ですが、ダンスなども、おやりでしょうな」
「えゝ、会社のオヒル休みにダンスのお稽古、みなさん、やるんですの。そのうちパーテーやるそうですけど、私あんまり趣味がないからヘタですわ」
「私の女房子供は戦災で焼け死んじゃったんですが、御主人は戦死なさったそうで」
「えゝ、とてもいゝ主人で可愛がってくれましたけど、全然ムッツリ黙り屋さんで、可愛がることしか知らない人なんですもの。毎日、満足で、たのしかったわ。あなたは年増の芸者や若い芸者や、たくさんオメカケがおありなんでしょう。たのしいわね。男の方は、うらやましいわ。うちの主人もよく遊んだ人ですけど、私も、時々、主人に遊びに行ってきて貰ったんですの」
「へえ、それは又、御奇特なことで。なぜでしょうかな」
女はウフヽと笑って答えない。幸吉は身の内が熱くなり、一膝のりだして、どうですか、泊って行きませんか、と言うと、えゝ、でも、泊るわけに行かないわ、うちに子供も待ってるし、見合いにきたゞけなんですもの、体裁が悪いでしょう、と言う。
幸吉も安心して、じゃア、まア、ひとねむり、つもる話だけ致しましょう、ということになって、めでたく契りをむすんだ。
「じゃア、もう、おそくなるから」
と云って、キヨ子が惜しげもなく立上って衣服をまといかけるのを、まだ宵のくちですよ、もう、ちょッと、と云って、幸吉は生れてこの方、こんな不思議な思いをしたことがない。死んだオカミサンも年増芸者も若い芸者も、昔遊んだ娼妓もオサンドンも、みんな一とからげに同じ女と見ることもできるけれども、キヨ子には全然風の変ったところがある。明るい電燈の下で、平気で裸体を見せて一枚一枚ゆっくり寸の足りないシャツみたいなものをつけるなどとは、たしなみのないことだけれども、そうかと思うと、遊びに就ては、娘のようにウブで激情的であった。芸者のようにスレているくせにタシナミだけ発達しているのに比べると、こっちの方がどんなにカザリ気がなくて、情が深いか知れない。そのうえ芸者の裸体などはカジカのように痩せていたり、反対にふとっていたり、着物の裾に隠れているからいいようなものゝ湯殿へ裾をまくって背中を流しにはいってくるのを見たゞけでも興ざめるほどの大根足であったりするのに、キヨ子の裸体は飾り窓の中の人形のよ
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