マンナカにはさまったサンドイッチみたいなものさ。あの野郎、百万と握りやがったんですよ。この節は、年増の芸者、若い妓、芸者の二三人も妾にもちやがって、二十万の新築して、それであなたお金の減り目が分らないてんだから、奥さん、この節、お嫁に行くなら、こういうところへ行きなさい。お客にはモグラモチを食わせたって、自分じゃア※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]かロースかなんかでなきゃ食いやしませんからネ。あの野郎と結婚するわけじゃない、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]やロースや蒲焼や天ぷらと、結婚すると思や、この節はもう、これに限るのよ。野郎なんざ、どうだって、栄養失調にならなきゃ、いいのヨ。ネエ、そうだわヨ、奥さん」
 こう言われてキヨ子も、じゃア見合いしましょう、ということになった。
 幸吉は立派な新築したけれども、うちで営業するわけじゃなく、今もって昔ながらの屋台をだしている。結局これが、婆さん流にアレヨアレヨともうかる。尤も幸吉は足まめだから、自転車で浦安あたりを往復して、同業者へヤミの魚をうる、オメカケ連を活躍させて待合へうりこむ、酒、タバコ、衣類でも何でも扱う。小さい時からデッチにでたり、色々の商売に失敗したのがモトデになって、ともかく呉服物でも時計や材木や紙のことでも心得があった。芝居の道具方に四年働いていたことなども大変役に立っている。
 その日は商売を休んで、例の※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]やロースや蒲焼や天ぷらを豊富に用意し、そっちの方が聟さんだとは知る由もなく、待っていると、婆さんがキヨ子をつれてきて、お酒がまわりかけたところで、じゃア、ごゆっくりと帰ってしまった。
 なるほど叔母さんの言う通りの十人並を越えた美人で、第一、事務員をしているから、断髪洋装、姿もスラリとしていて、この年まで断髪洋装などにつきあったことがないから、外人を見るとみんな同じに見えるように、みんな女優に見えるのである。こっちは全然学がないのだから、
「エッヘッヘ」
 幸吉はオデコをたゝいて、
「よろしく、お願いしやす。あたしゃ、御覧の通りの者なんで、清元と義太夫をちょいとやったゞけの無学文盲、当世風にゃカラつきあいの無い方なんで、先日も若い妓が、エッヘッヘ、ダンスをやりましょうなんて、御時世だからオジサンも覚えといて損はないわヨ、なんてネ、五六ぺんお座
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