うに手脚がスクスクのびていて、白く、なめらかであった。顔を見ると、三十五の年齢が分るけれども、白いなめらかなスクスクとのびたからだには年齢がない。幸吉は見あきなかった。
 いつまでも引きとめるわけに行かないので、幸吉も仕方なしに衣服をつけて、
「じゃア、なるべく早く式をあげよう。河岸の魚の値段がハネ上るほど盛大な催しをやろうじゃないか」
 キヨ子は返事をせず、靴下をはいていたが、
「今夜のこと、オバさんに話しちゃ、いやよ」
「いゝじゃないか。どうせ一緒になるんだから」
「見合いの日にそんなこと、おかしいから、言っちゃ、いや。そんな人、きらいだわ」
「そうか、わるかった。それじゃア、誰にも言いやしないよ」
 女を送って歩きながら、
「あすからでも、いゝや。式はあと廻しにして、すぐ来てくれてもいゝんだから。なんなら、二三日うちにだって、お祭みてえな式をあげるぐらい、わけのないことだから」
「結婚なんか、どうだって、いゝじゃないの。このまゝ、こうして、時々あうだけで、いゝじゃなくって」
 キヨ子の声は涼しいものだ。幸吉は耳を疑って、
「だって、お前、結婚した方が、お前のためにも、いゝじゃないか。子供を二人かゝえて、事務員なんて、つらかろう。私のところじゃ、買いだしから、オデンの煮こみ、みんな私がやるんだから。私ゃ、ふとってビヤダルみたいだが、毎日自転車で十里ぐらい駈け廻って買ったものを売りさばいて、屋台の支度もして、仕事がすんで一パイのんで、梯子酒して、虎になって、それで、お前、手筈一つ狂わねえや。狂うのは虎の方ばっかり、然し、お前、どんなに大虎になったところで、翌日の仕事が、それで、これっぱかしも間に合わなかったということがないぜ。その代り、目がさめる、フツカヨイの痺れ頭にキューとひとつ注射しといて、ネジリハチマキで自転車をふむ、勢いあまってひっくらかえって向うズネすりむいたって二分と休みやしねえ。慾と仲よく道づれで働くから、この節は、それで疲れたということもねえや」
 キヨ子はうつむいて、しばらく黙って歩いていたが、
「だってネ、夫が戦死して結婚するなんて、なんだか助平たらしくて、いやだわ。私、夫が出征してから、今まで。ねえ、だから、もう、ちょッと、ゆっくり、待とうよ。そんなに、いそいで、結婚なんて、言わなくっともいゝじゃないかと思うわ」
「そうかなア。それじゃア、な
前へ 次へ
全15ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング