懐手をぶらぶらさせて、なんだか奇妙に落付き払つた風をし乍らもつそり突立つてゐて、小笠原の出てくるのを見ると、まづ真青な顔を出来るだけ豁達《かったつ》げに笑はせやうとしたのだが、「僕はこんど痴川を殺すよ」と言つた。
「うん、その話は痴川からきいてゐたが――」
小笠原はまるで欠伸《あくび》でもするやうな物憂い様子でぶつぶつ呟くやうに言ひすてたが、暫く無心に余所見《よそみ》に耽つてから漸くのこと首をめぐらして、今度は一層遣り切れない物憂さで、「ゆふべも痴川と呑んだんだが、あいつは君を実に気の毒な心神消耗者だとさう言つてゐたつけな……」それから丈の高い腰から上をぐんなり椅子へ凭せ、頭をがくんと反り返らせて、それつきり固着したやうに天井を視凝めてゐる。伊豆は自分の決意を全然黙殺しきつたやうな小笠原の態度にちらくらする反抗を覚えた。
「俺はあいつの※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]く様子が手にとるやうに見える。俺はあいつの首を絞めるつもりだが、あいつは血を吹いて醜くじたばたして……」
伊豆はそこまで言ひかけると咄嗟に自分もじたばた格巧をつくつたが、希代な興奮に堪へ難くなつて迸しるや
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