告別式へも出なかつたので、誰に逢ふこともなかつたのである。痴川は伊豆を思ひ出す度に立腹したが、或る日急に思ひ立つて伊豆を訪ねた。伊豆に会つて、次のやうに言ふつもりであつた。
「俺達三人は皆んな莫迦者だ。広い生々した世界の中から狭苦しい五味屑のやうな自分の世界を区切つてきて後生大事に縋りついて、ちつぽけな檻の中で変に神経を鋭くして生きたくなつたり死にたくなつたり怒つたりしてみたところで仕様もない。まるで自分を牢獄へ打ち込んでゐるやうなものだ。ほかに世界は広々とひろがつてゐる。案ずるに君と俺は結局認めすぎるほど認め合ひ、頼りすぎるほど力にしあつているのが斯ういふ結果になつてゐるのだから、俺達は無意味に神経を絡ますことを止して単にざつくばらんに頼り合ひ、溌剌とした世界でもつと健全に愉快に生きねばならん」――
痴川は道々斯う切り出す時の自分の勿体ぶつた様子を様々に想像することが出来たりして、ひどく意気込んでゐた。ところが伊豆の顔を見たとたんから、まるで思ひがけないことばかり思ひつくやうになつて、飛んでもない別のことをまくしたてた挙句に「お前のやうなスネークにはもう二度と会はん」と言つて、遂ひ
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