を吐露すといはんばかりに、まるで何か怒るやうな突きつめた顔で吃りがちの早口で呟いでゐたが、急に言葉を切つた。ふいに喋るのが面倒臭くなつたのだし、それに簡単な解決法が頭に泛んだからである。そこで、言葉を切つたかと思ふと、痴川はいきなり伊豆に武者振りついた。そのはずみに子供のやうに泣きだしてゐた。痴川は伊豆を捩伏せた。痴川は泣きじやくりながら甃《いしだたみ》へごしごし伊豆の頭を圧しつけ、口汚く罵つたり殴つたりした。伊豆はねちねち笑ひながら殴られてゐたが、やはり痛いとみえて、時々ふうふう空気を吹くやうなことをした。痴川は今度は伊豆を笑はせまいとして一途に頬つぺたを捻つたりしてゐたが、漸く手を離して立ち上つて、尚厭き足らずに数回蹴飛ばしてから、自分の家へ戻らずに往来の方へ出て、人気ない街へ向つて一散に走り去つた。駈け乍らも頻りに伊豆を罵つてゐたが、街角を曲ると急にほつとして、腰が崩れるほど泪が溢れた。彼は漸く電信柱に縋りついて、「俺はどうしやう。どうしたらいいだらう。もう生きたくもない」と言つて、喉がつまつてきて一生懸命胸を叩いてゐるのであつた。
 伊豆はどうやら起き上つて、暫く嘔吐を催して苦
前へ 次へ
全33ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング