たりへ手をやりもそもそ手探りしてのち、漸く其の襟を握つて首を絞めはじめたのである。麻油は驚いた。が、非力な伊豆をいつぺんに跳ね返すと、あべこべに伊豆の首筋を執《とら》へて有無を言はさず絞めつけた。伊豆はばたばた※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]いて危く悶絶するところまでいつた。麻油が余りの呆気なさに呆れ乍ら手を離しても、暫くのうちは仰向けに倒れたまま尚も絞められてゐるやうに自分一人で※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]いてゐたが、やうやう立ち上り、のろのろと向きを変へて、座敷の真ん中で四這ひになると、やがて白つぽい嘔吐《へど》を吐き下した。余程苦しいものと見え、数分の間犬の格巧をしたなりに身動きも出来ず、顔一面に泪を溢らせてゐた。
「なんだい、意気地なし。痴川が殺せないもんであたしを殺すことにしたの? 青瓢箪!」
麻油はさう叫んで冷笑した。
伊豆は返事をしなかつた。返事も出来ないほど苦しいらしく、尚も四這ひのまま首だけを擡げ、しよんぼりして※[#「口+穢のつくり」、第3水準1−15−21]《しやっく》りしてゐた。
「今にみんな殺してしまふ」
伊豆は斯う言ひ残
前へ
次へ
全33ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング