たとき、いつも比較的に富士見の皮膚のすきとおる患者たちを思いだしたが、精神病院にも同じ年ごろの分裂病の患者たちがいて、彼らも一様に病院を呪い、病気を呪い、鉄格子の外へ脱出したがっていたが、帰する思いは非常に違っていたようである。
皮膚のすきとおる青年たちは、いずれもインテリであり、絶望だの虚無だのと、それらの言葉について関心を持っていたが、然し、彼らは、健全な肉体と、健全な生活、美しい恋人や、家庭などを考え、そして山々を呪い、都会にあこがれていたようである。
分裂病の青年たちは、希望に対して不信であり、彼らの考えが、はるかに孤絶していることは分るが、彼らも一様に、美しい恋人を胸に描いていたことに変りはない。然し、人生に対する希望が、皮膚のすきとおる青年たちほど、熱烈で純情であるとは思われない。然し、あるいは、はかりがたいほど深く熱烈であるために、不信の度が激しいのかも知れなかった。彼らは孤絶していたが、その外面にも拘らず、人間に対する愛着は、まさに「きわまりない」もののようでもあった。もとより事情は不可能であろうが、私は、精神病院と結核療養所の位置を変えたらよかろう、と、鉄格子から
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