の点だけで、あるいは手術に成功するかも知れないが、死ぬかも知れない。果して、手術をしてもよいか、主治医の藤森先生から、私へ、問い合せの手紙がきていた。どうしてよいか、私には、分らなかった。
 入院中のWが金に困っている筈だ。手術の費用もいる筈だ。然し、雑誌社は、私が仕事と闘うことをやめたと知って、もはや一文も金を貸してくれなかった。私は昏酔中に、雑誌社のSと用談し、そして、Wと会った。まだ見たことのない藤森先生ともお会いした。
 すべて、それらが、夢であることを、私はどうしても、信じられなかった。私は、私をたぶらかす女房や女中の奸計を怒り、木刀をふるって、追い廻した。然し、私の歩行は、もはや不自由で、便所へ行くにも、這うようにしか行動ができない。
 気違いは、裸になるというが、妙なもので、私も、女房や女中の奸計を怒って狂いたつと、一糸まとわぬ裸体になっていた。いつ、なぜ、そうなったか、記憶がなく、それを羞しいとも思わなかった。
 その他の狂態について書こうと思えば、まだ記憶している多くのことがあるし、まったく意識喪失の下に為された多くのこともあるに相違ない。なぜなら、二十五六日の時間の
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