と用談したり、酒屋の借金を払いに行ったり、すべて、日常のことのみを夢に見、然し、それを、夢と自覚することが出来ず、実際自分が行った行為としてしか理解することができなかった。
それにも拘らず、私の知らないうちに、一週間がすぎている。たしかに、寝た日から、一週間目の日附の新聞が枕元にあるのである。私は夢の中の出来事を確実な行為として思いだす。そして、その出来事から、何分間ぐらいウタタネしたのだろうと考える。そして、誰々が来て、こう約束した筈だが、もう彼は帰ったかと、女房にきく。いゝえ、あなたは寝ていらしたゞけよ、どなたも来ないわ、と女房が云う。女中に、きゝたゞしてみる。女中も、そう答える。
私は、それらを、みんな、人々が心を合わして、私を惑わしている奸計《かんけい》だと思った。新聞の日附も信用ができず、みんなが、心を合わせて、そこまで綿密に、私を惑わす計画を立てゝいるのだと思った。
富士見のサナトリウムにいたWは、東京へ戻って入院し、手術することになっていた。五ツある肺のうち、Wは三つの肺が空洞であり、むしろ、生きているのが不思議だとのことであったが、ともかく、奇妙に、営養がよく、そ
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