つたくヤブ蛇であつた。
 木村、十六分考へて、四八金。
 これも、控室の予想を絶した一手であつた。
「渋い手だね」
 と、金子が嘆声を放つと同時に、
「流石《さすが》だなア」
 と、升田がうなつた。
 塚田、九分考へて、三三桂。木村ノータイムで二九飛。
 私は又ソッと道場へ忍んで行つた。その時午前二時三十五分であつた。二時五十分。塚田、駒台から銀をとりあげて、決然たる気合をこめて叩きつける。四六銀(十六分)。ただもう戦闘意識だけといふ、ちよッと喧嘩腰の力のこもり方であつた。負け気味のボクサーが、たゞもうテクニックなく、やけくそにぶつかつて行くラッシュに似てゐる。興奮し、ウハズッてゐるとしか思はれない。
 それに対する木村は、落ちつきはらつて、パチリと打つ。二六角(二分)つゞいて、塚田、四四桂(七分)六三角(一分)この時までに、木村四百五十五分を使ひ、塚田は三百七十六分使つてゐる。
 ここまでの指手を私が控室へもたらすと、土居、大山、金子、異口同音に、塚田が悪くした、とつぶやく。控室の高段者連、ここで塚田の敗勢をハッキリ認めた。
 塚田三六桂(二十分)木村ノータイム、五八金。塚田、また二
前へ 次へ
全54ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング