せん。七目なら、オレはいつでも大山にのる。どうだい。やらうぢやないか」
倉島君がひやかした。よし、やらう、といふことになつて、安永君も真剣である。よッぽど、口惜しかつたらしい。白の方が黒の何倍も時間をかけて考へこんでゐる。かなり良い碁に持つて行つたが、やつぱり白がつぶれてしまつた。
私は大山八段を見たのは、この日が始めてゞある。原田八段も、さうだ。将棋の力といふものは私には分る筈はないのだが、勝負師といふ点では、大山はちよッと頭抜けてゐるやうだ。
私は木村、升田とは碁を打つたことがある。どつちも力碁で、升田ときては、ひッかき廻すやうな碁であるから、まだ力の弱い大山は升田にひッかき廻されて負けるさうであるが、力が弱いのだから仕方がない。然し、持つてゐる力をどれだけ出してゐるかと云ふと、大山は十分に出しきつて、ほとんど余すところなく、升田は勇み肌でポカも打つ。
碁に於けるこの性格は、本職の将棋の場合も当てはまるに相違ない。大山にはハッタリめいたものがないのである。非常に平静で、それを若年からの修練で身につけたミガキがかゝつてゐるのである。兄弟子に升田のやうなガラッ八がゐて、頭ごなし
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