独の歎きを異常な深さに感じなければならなかつたものでせう。彼の生活に血と誠実は欠けてゐても、彼の敗北の中にのみは知性の極地のものをかり立てた血もあり誠実さもありました。立ち直ることができずに彼は死んでしまつたのですが、そのときは死ぬよりほかに仕方がなかつた時でしたでせう。
知性の極北まで追ひつめられたものではない自殺、つまり漠然とした敗北感や失意、また失恋や貧乏も同断ですが、それらのものは単に偶然の仕業によつて死ぬものであります。ある偶然の仕業がなければ死なずにゐるでせうし、死ななかつたとしても、死ぬ前の彼とその後の彼と殆んど生活に変りはないと思ひます。
然しながら芥川のやうに同じ失意や敗北感も知性の極点のものを駆り立てて追ひつめられてみると、これはどうにも死なずにはゐられません。もし死なずに、立ち直ることができたとすれば、彼の生活も変つたでせうし、また芸術も変つたでせう。私は彼の残した芸術をでなく、死ななければ残したであらう芸術のために、その悲痛な死を悼む思ひがいくらかあります。
生憎これは時代の思想がさうであつたせゐでせうが、芥川ほど誠実無類な敗北をしても、なほ自殺といふ単純
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