まつたひとつの脳味噌を想像します。次にこれらの材木の組合せによつて生まれるところのありとあらゆる形々々のやや無限を思はせるところの明滅によつて脹《ふ》くれ歪み合し崩れ混乱する様を想像します。この脳味噌の内部に於ては古典的とでも言ふ以外に仕方のないほど単調なかつまたまともな均斉のみは許るされますが、破調の均斉は許るされてゐません。そして単調にまで高められた均斉の微細な一角が崩れても、この脳味噌は再び矢庭に形々々のめあてない混乱に落込みます。
 かうして私はいつからといふことなく又必ずしも右記のやうな論理を辿つてのことではなく、ある曖昧な気分のみの過程の後に、隠元といへばひとり痩せ衰へ目のみ鋭く輝き老えさらぼうた狂気の坊主を思ふことがこれも亦自然のやうになつてゐました。たとへば再び私達の眼前の幕にこの坊主の脳味噌をすえつけませう。いま脳味噌の内部ではどうやら鼓楼の全形が単調な均斉にまで高められたところであります。ところで鼓楼の階段が今脳味噌の内部に於て建物の右にあるか左にあるか中央にあるか知りませんが、かりに中央にあるものならこれを我々の独断でちよつと右へ移してみませう。単調にまで高められ
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