処女作前後の思ひ出
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)発願《ほつがん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)長島|萃《あつむ》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)グル/\
−−
私が二十の年に坊主にならうと考へたのは、何か悟りといふものがあつて、そこに到達すると精神の円熟を得て浮世の卑小さを忘れることができると発願《ほつがん》したのであるが、実は歪められた発願であつて、内心は小説家になりたかつたのであり、それを諦めたところに宗教的な満足をもとめる心も育つたのであらうと思ふ。なぜ諦めたかと云へば、言ふまでもなく、才能がないと思つたからだ。
芸術は天才がなければ出来ないと私は考へてゐた。私はスポーツにはやゝ天分があつて、特にヂャムプは我流の跳び方だけでインターミドルに入賞したり、関東だけだつたら、投擲《とうてき》でもハードルなどでも勝てるし、野球や柔道も巧かつた。それに比べると芸術の天分など全然自信がなかつた。その上、いくらか天分があると思ふヂャンプでも同じ頃織田だの南部がインターミドルの
次へ
全13ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング