た相棒の一人だから、はじめは待鳥君を怖がつてゐたが、三味線の音をきいて、おや粋な人ですねなど言ふやうになり、やがて僕の帰りには立寄るやうになつた。色々音曲や演劇の美学的な解説などきいて「大変勉強になります。先生のお話を伺つてゐますと、教養のないことが羞しくなりました」など神妙な挨拶を述べてゐるのがきこえたものだが、今はどうしたか行方が知れない。

   (二)[#「(二)」は縦中横] 居酒屋へ

 午前一時二時頃、眠れないので酒をのみに行く。おでん屋が寝てゐるから、屋台である。本郷三丁目の明治製菓の裏である。隣の屋台が支那そば屋。二軒並んでゐる。
 むつつりしたブロンズ像のやうなおやぢがゐる。ペペ・ル・モコに良く似た魁偉な好男子である。酔つ払ふといくらか饒舌《しゃべ》るが、大概ブロンズ像のやうに無愛想だ。近所に美人のやつてゐる屋台もあるが、かういふ店はお客が月並だ。午前一時二時となると得体の知れないのが飛び込んできて面白いものであるが、美人の店は何時になつても月並なものである。同じ月並精神が何人もねばつてゐる。
 付近のバーが店をしめると、女給達がどや/\と屋台へ殺到し、隣りの支那そば
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