深夜、やまさんが酔つ払つて年始にやつてきた。昨年中は色々つれない仕打ちを受けてなさけない、今年は相変りますやうになど奇妙な挨拶をして、てこでも動かない。元旦|匆々《そうそう》僕も大変くさつた。
 もう午前二時であつた。僕は意を決し、友人に救ひを求めることにした。やまさんを誤魔化して連れ出し、自動車を走らせて詩人鵜殿新一のところへ駈つけた。
 折から鵜殿は深夜といふのに元旦の肴を部屋一杯に並べて一人ちびり/\と年賀の酒を飲んでゐるところであつた。元旦は居酒屋が休みだ。

 鵜殿は事情を呑みこんで万事心得たといふと、ちよつと近所の兄貴の家へ酒を取りに行つてくるからと嘘をついて、二人を残し、出て行つた。彼がひろげておいた元旦料理で僕達も一杯傾けて待つうちに、間もなく一人の九州男児をひきつれて帰つてきた。それから又数分すると、美学者の待鳥君が鵜殿の兄貴のやうな顔をしてやつて来て、自宅で一杯差上げたいから来て呉れと言ふ。それで待鳥、鵜殿、僕の三人はやまさんと九州男児を置き残して、芽出度く外へ出ることができた。
 僕達は例によつて例の如き場所で大笑ひしながら酒をのんだのであつたが、笑ひごとでないの
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