ば勝つ、それがハッキリしてゐるから、戦はずして勝ちうるので、戦つても勝つ、無駄な損害を省くだけの話なのである。
ところが日本に於ては、実力なき者が戦はずして勝つ、さういふ有りうべからざることを前提として兵法だの剣術が俗物共の真実めかしたオモチャになつたから、そして、それが堂々、国民の性格的な教養信念として通用するに至つたから、あれは、今日の大敗北、破滅を見るにも至つたのである。
織田信長は兵法の大家、日本に於ける第一人者であつた。種ヶ島伝来の鉄砲を第一番に手に入れたのは武田信玄であつたが、彼は火縄銃といふものが一発打つと二発目までに操作の時間を要することを見て、これでは、この操作の時間に敵た斬りこまれるから兵器としてはダメだと見切りをつけ、一発目を防ぐ楯をつくり、これで一発目をしのいで、二発目までに斬りこむ、かう考へて鉄砲を防ぐ楯の発明に主点をおいた。
ところが信長は、操作の時間をゼロにする方法を発明、鉄砲隊を三列にして、第一列が射つ、次に、第二列、次に第三列、第三列が射ち終るまでに第一列が第二発目の用意を完了する。然し射ちもらした敵にふみこまれると鉄砲隊は接近戦に無力だから、鉄
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