唱えはじめた。二人の狂信者がそれにつれて、ここをセンドと合唱しはじめたことは云うまでもない。

     王様誕生

 それから十日ほど後のことである。日光男体山の山中で心臓を刺され、首を斬り落されて死んでいる男が発見された。
 一定の日でないと行者が通ることもない山だが、その日に限って里人がそこを通ったので、兇行の翌日に死体が発見された。これも一ツの幸運。
 殺された男の懐中から一通の手紙がでてきたので、被害者の身許も分った。重ね重ねの幸運だ。被害者は云うまでもなく不二男。隣りの県の人間だ。この手紙が現れなければ、事件は永遠に解決されなかったであろう。
 手紙はヒサからのもので、日光で待っているから来てほしい。迎えの人を馬返しにだしておくから、その人の案内通りに安心してついてきて欲しい。日光の山中でつもる話をして縁を結びたい、という味なことが書いてあった。
「すると、情痴の殺人か。それにしては、わざわざ首を斬り落すほどテイネイなことをしながら、懐中を改めないとはマヌケの犯人がいるものだ。常識では考えられないようなマヌケだね」
 ところが日光からのレンラクで、小野刑事がヒサを取り押え、
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