る人のない山奥でやらなければならない」
「そうだとも。オレは山の神の行者だから、山の神のお膝元へおびきよせてやらなければならぬぞ。日光の奥山がよい。日光へおびきよせてやらなければならぬぞ」
「そうだ。日光の男体山の奥山でやらなければならぬ。中宮祠の裏のずッと奥の沢へでて藪の中でやらねばならぬ。それをやるのは兵頭の役だが、兵頭はやることができるか」
「そうだ。そうだ。それをやるのは清の役だ。清はきっとやることができる。うしろから心臓をブッスリ突き刺して、首を斬り落すのだ。きっとやることができるぞよ」
兵頭も寒気と亢奮とで石のように堅くなってブルブルふるえていたが、こう云われると膝からガクガクとゆれはじめて、カチカチと時計のように歯を鳴らしながら、
「ハイ、オレが必ずやってみせます。オレも昔のオレではない。いまでは、神様を見ることも、声をきくこともできるようになりました。もう一とふんばりで、立派な行者になってみせます。不二男の死神と狐はオレがスッパリ落してみせます」
それをきくと平作は力一パイ二人の手を握りしめて波のように揺さぶりながら、
「ナム妙法蓮華経。ナム妙法蓮華経」
お題目を
前へ
次へ
全22ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング