取り調べてみると、ヒサは当日他の場所にいたことが、多くの人々の証言もあってハッキリ分ったのである。
ヒサはそんな手紙は書いた覚えがないと云った。
「チョイト、旦那。この手紙は男の手だわね。女の手に似せるために、わざとヘナチョコに曲げて書いたのよ。私はね。カツギ屋渡世はしてますけどさ。これで書は小学校の時から然るべき先生について、書道の奥儀をきわめているんですからね。スズリと筆をかしてごらんな。水茎の跡を見せてあげるから」
書かせてみると、なるほど達筆、どこの姫君が書いたかと思うような能筆である。捜査はやり直しということになったが、被害者の身許は判明したし、証拠の手紙があるから、犯人の所在はきわめて限定されている。ヒサをめぐる男を洗って行けばよい。ところが、ヒサの情夫をしらべてみると、みんなアリバイがある。みんなカツギ屋のことだから、それぞれ当日の所在にはハッキリした証人があげられるのである。
小野刑事は考えた。
「そうだ。男を迎えにだすと書いてある。情夫が迎えにでるわけはないから、迎えにでた男というのは情夫のうちの誰でもない別の人間でなければならぬ」
駅へ行って調べてみると、そ
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