かれた人間には影がたちこめているものだ。狐の鳴く声もきこえる」
「なんだ。影や声しか見たり聞いたりできないのか。オレには不二男についてる死神もメスの狐もハッキリ姿が見える。死神もメスの狐も不二男の背にしがみついて、両手を首にまき両足を腰にからみつけて藤のツルのようにシッカリしがみついている。死神の奴が右肩から、メス狐の奴が左肩から、不二男の顔をマンナカにまるで顔だけ三ツある化け物のようだが、身体は一ツで、何百年も年を経た藤ヅルのようにくいこんで一体となり、とても放す見込みがない」
「イエ、オレが法力で落してみせる」
「キサマ、影ぐらいしか見えないくせに、大きなことを云うな。オレにはチャンと見えているのだが、それでもどうすることもできないのだぞ。こう執念深くガッチリくいこんでしまっては、もう普通では落すことができないものだ。ヤ。待て、待て」
平作は袖でチョウチンの火を隠すようにしながら、ジイッと聞き耳をたてていたが、
「フン。どうやら、ソラ耳であったらしい。死神や狐は疑り深いから、近所で相談していると、すぐカンづいて、足しのばせて立ち聞きにくるのだ。大声をたてると悟られるから、お前らモ
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