。その顔が青ざめはてて、怒りのために、ひきしまり、狂ったように、きつかったのだ。
「四年前に、なぜ、四年前に」
変に、だるく、くりかえした。
「なぜ、四年前に、それを仰有《おっしゃ》って下さらなかったのです」
そして、かすかに、つけ加えた。
「四年間……」
すると、あの人は、うつろな目をあけたまま、茫然と虚脱し、放心しているのだ。
私はたぶん色々な悲しいことを思ったであろう。
何を考え、何を云ったか、あとはもう、私は殆ど覚えていない。
「外へでましょう」
と私が言って、出たのを覚えている。私は身も心も妙にひきしまり、寒気の抵抗の中で二人で歩きつゞけていなければならないような気持であった。もう日暮れであった。寒い風がふいていた。
私たちは、蒲田から大森へ、又、大森から大井まで歩いた。
★
大井町で別れると、その時から、私はもう不安と苦痛に堪えがたい思いであった。たしか三日のあとに逢う約束であったと思う。三日という長い時間が息絶えずに待ちきれるか、私は夜もろくに眠れなかったが、そのような狂気について、私はもはや追想の根気もなければ、書きしるしたい気持
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