子の女体を知りつくし、蔑み、その情慾を卑しんでいた。矢田津世子も、何らかの通路によって、私の男体を知りつくしていたに相違ない。
私たちは、慾情的でもあった。二人の心はあまりに易々と肉体を許し合うに相違なく、それを欲し、それのみを願ってすらいた。それを見抜き合ってもいた。
お互の肉慾のもろさを見抜き合い、蔑み合う私たちは、特にあの人の場合は、その蔑みに対して、鉄の壁の抵抗をつくって見せざるを得なかったであろう。二十七のあの人は、気軽に二人だけの愉しい旅行を提案することができたのに、そして、なぜ、あのとき、それを実行しなかったのであろうか。惜しみなく肉体を与えるには、時期があるものだ。矢田津世子はそれを呪っていた。その肉体に、憎しみや、卑しめや、蔑みの先立っている今となっては、あまりに残酷ではないか。
矢田津世子が、それをハッキリ言ったのは、この日であった。
下心を知りあって、そのためにフミキリのつかなくなった私は、よけいに苛々《いらいら》ジリジリと虚しい苦痛の時間を持たねばならなかった。だから私が、出ましょう、とうながして、私の部屋へ行きましょう、と誘うと、矢田津世子はホッとした
前へ
次へ
全34ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング