を加えても、と思い決していた。むしろ、同意をもとめて、変にクズレた、ウワズッたヤリトリなどをしたくはなかった。問答無用、と私は考えていたのだ。
 食事中は、そのことは翳にも見せず、何やら話していた筈であるが、もともと私たちの話はいつも最も不器用にしか出来ないところへ、そういう下心があっては、それが相手に感づかれずにいるものではない。
 下心を知り合って、二人は困りきっていた。私は矢田津世子が私の下心を見ぬいたことを知っていたし、それに対して、色々に心を働かせていることを見抜いていた。
 私は矢田津世子と対座するたびに、いつも、鉄の壁のような抵抗を感じていた。彼女も、同じものを私から感じていたであろう。
 鉄の壁の抵抗とは、矢田津世子が肉体を拒否しているということではない。その点は、むしろ、アベコベなのだ。
 私たちはお互に、肉体以上のものを知り合っていた。肉体は蛇足のようなものであった。
 私たちはすでに肉体以上のものを与え合っていた。肉体を拒否するイワレは何もない。肉体から先のものを与え合い、肉体以後の憎しみや蔑みがすぐ始っていたのだ。
 私はすでに「いづこへ」の女を通して、矢田津世
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