受け、卑しめられていると思ったであろう。あなたはすでに大人ではあったが、私のそれが、私が役者でないせいで、余裕のないせいであるということを見破るほどの大人ではなかった。あなたも、恋の技術家ではなかったのである。
 私が必死であったように、あなたの変に甘えたクズレも必死で、あなたが役者でなく、余裕のないせいであったかも知れない。その判断をつける自信は、今もなければ、未来もないに相違ない。
 然し、クズレた甘さというものは、キチガイめくものがあった。滑車が、ふとすべりだして、とまらなくて、自分でどうすることもできないようなダラシなさがあった。それは瞬間であった。その次には、もう、あなたは私を更に狂的な底意をこめて、憎しみ、卑しめ、蔑んでいたのだ。
 あなたのクズレた甘さときては、全然不手際な接木《つぎき》のように、だしぬけに猫の鳴声のような甘え方を見せるのだ。その白痴めく甘さと、キチガイの底意をこめた憎しみ卑しめ蔑みに、私はモミクチャに飜弄された。あなたに飜弄の意志はなくとも、私の受けるものは飜弄のみであった。
 同じことを、あなたは私に対しても、言い、叫びたいであろう。あなたも、私を呪っ
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