呆気にとられるのだ)そして私達は飲み仲間の歓呼の声に送られて堂々と出発し、銀座を飲み歩いて巡査に叱られたり、そして、あつちのホテルだの、こつちの宿屋で酔ひつぶれた。けれども娘は頑として肉体の交渉を拒絶し、娘は私に、私は処女ではないのよと言つて抱きついて色々悩しいことをするのだけれども、この娘はたしかに処女とは如何なるものであるか、男女関係の最後の、交渉がどういふものであるか、全然知らなかつたのだと思ふ。だから私とこの娘は中原中也だの隠岐和一だの西田義郎だの飲み仲間の声援に送られて頻りに諸方のホテルで夜を明したけれども、まつたく肉体の交渉はない。私は思ふに、終戦後現れたフラッパーの中には案外この種の何も知らない女が相当数ゐるのではないかと考へてゐる。そしてこの種の何も知らない娘に限つて外形的に大無軌道をやらかすのではないかと考へる。
私が京都に「吹雪物語」を書いてゐたとき、下宿屋の娘がこの年頃で京都|名題《なだい》の不良少女で、無軌道であつたが素直な気立のよい娘であつた。その後、中学生の三人の不良少年に強姦されて半狂乱になつてそれから転落が始つたが、結局この種の運命は仕方がないので、不
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