に椅子に腰かける。どうだ、一緒に飲まないか、こつちへ来ないか、私が誘ふと、貴様はドイツのヘゲモニーだ、貴様は偉え、と言ひながら割りこんできて、それから繁々往来する親友になつたが、その後は十七の娘については彼はもう一切われ関せずといふ顔をした。それほど惚れてはゐなかつたので、ほんとは私と友達になりたがつてゐたのだ。そして中也はそれから後はよく別れた女房と一緒に酒をのみにきたが、この女が又日本無類の怖るべき女であつた。
私は十七の娘のことを考へると、失はれた年齢を、非常になつかしむ思ひになる。もう、再びあのやうな嘘のやうな間の抜けた話はめぐりあふことが有り得ない、年齢的に、否、二十八の私は驚くほど子供でもあつた。
私はそのころ別の女の人に失恋みたいなことをして(これが又はつきり失恋でもないのだから始末がわるい、非常にいりくんだ精神上の絡みがあつた)さういふわけで、十七の娘のことなど行きづりの気持しかなかつたのに、娘の方では八百屋お七のやうに思ひこんで私を愛してこの娘は変な手練手管などまだ眼中にないのだから、酒飲みの私を愛する故に彼女も亦威勢よく酒をのみ(まつたく常にグッと、一息で誰でも
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