行けば、やがて盗人に会わないものでもないと思った。草をわけ、枝をわり、夢中に歩いた。
もはや自分の歩くところが、どのあたりとも覚えがなかった。山の奥に踏みまよっていた。行くてに笹の繁みをくぐり常に逃げる何物かあり、頭上に蝉がとびたって、逃げまどい、枝にぶつかる音がきこえた。
と、行手はるかに、ののしりどよめく物音が、渡る風に送られて、きこえたような思いがした。たたずんで耳をすますと、まさしく空耳のたぐいではない。音をたよりに忍びよると、木蔭のかなたに焚火をかこむあまたの人の影がみえ、それはまさしく盗人どもにまぎれもなかった。
彼等は酒に酔い痴《し》れていた。すでに宴も終りと思われ、あたりは狼藉をきわめて、ある者はののしり、ある者は唄い、また、ある者は踊り浮かれていた。
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ぬすびととねずみは、三輪の神とおなじくて、おだ巻のいとのひとすじに、よるをのみこそたのしめ。
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大納言は最も近い木蔭まで忍びよって、さしのぞいた。彼等の獲物と覚《おぼ》しきものを物色したが、遠い夜目にはさだかに見える筈がなく、小笛のありかを突きとめることができ
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