どは二の次に白状させるという習慣が厳存しているのだから、名探偵登場の余地がなかったのも尤もな次第であった。
 私は然し探偵小説を愛好するのはその推理に於てで、従って、私は探偵小説をゲームと解している。作者と読者の智恵比べ、ゲームというように。
 だから専門の知識を必要としなければ謎の解けないような作品は上等品とは思われないので、たとえばある毒薬の特別の性質が鍵である場合には、その特質をちゃんと与えておいて、それでも尚、読者と智恵を競い得るだけの用意がなければならぬと考える。
 だから殺人の方法などは、短刀で刺す、ピストルで打つ、なぐり殺す、しめ殺す、毒殺する、なるべく単純であるべきで、謎は殺し方の複雑さなどにあるのじゃなくて、アリバイにある。又、犯人でありうる多様な人物を組み合せて、そのいずれもが疑惑を晴らし得ないような条件を設定するというようなところに主として手腕を要するのじゃないかと思う。
 そして愈※[#二の字点、1−2−22]解決となった際、特に殺人の動機が読者を納得せしめなければ、作品は落第だ。又、その動機も隠されていたのでは話の外で、あらかじめ、読者に与えられているものでな
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