私の葬式
坂口安吾

 私は葬式というものがキライで、出席しないことにしている。礼儀というものは、そんなところへ出席するところにあるとは思っていないから、私は何とも思っていないが、誰々の告別式に誰々が来なかったなどゝ、日本はうるさいところである。
 大倉喜八郎というお金持はオレが死んだら赤石山のお花畑へ骨をまいてくれと遺言したそうだが、私は別にそう凝った手数をかける必要はないから、私の骨なんかは海の底でも、森の片隅でも、どこか邪魔にならないところへ、なくして貰いたいと思っている。葬儀などゝは、もってのほかで、身辺の二三人には、誰かに後始末してもらわなければならないけれども、死んだ人間などゝいうものは、一番つゝましやかに、人目をさけて始末して欲しい。むなしくなった私のむくろを囲んで、事務的な処理をするほかに、よけいなことをされるのは、こうして考えても羞しい。
 死んだ顔に一々告別されたり、線香をたて、ローソクをもやし、香などゝいうものをつまんで合掌メイモクされるなどゝ、考えてもあさましくて、僕は身辺の人に、告別式というものや、通夜というものはコンリンザイやらぬこと、かたく私の死後をいまし
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