、わかるよ。先生は、まだ、とらわれているんだ。オレみたいな、才能のない奴が、何を分ったって、ダメなんだ。先生に分って、そして、書いてもらいたいんだ。旅にでれば、必ず、わかる。人間の、ふるさとがネ、オヤジもオフクロもウソなんだ、そんなケチなもんじゃないんだ、人間には、ふるさとが有るんだ。慾がなくなると、ふるさとが見えるものだ。本当に見える。オレと一しょに旅にでて、木賃宿へとまって、酒をのんで、歩いて、そして、先生にも、きっと見える」
三平の眼は気違いじみて、ギラ/\光ってくるのであった。
「先生、今日は先生にオゴリにきたよ。たまには、三平の酒をのんで下さい。そのつもりで、ゆうべ、よけい稼いだんだ」
私をオゴルよけいな稼ぎは、一円五十銭、一円二十五銭、いつもそれぐらいなハンパな金で、蟇口《がまぐち》のない三平は、それを手に握って私を訪ねてくるのであった。彼のオゴリは、新橋のコップ酒か、本郷の露店であった。
時たま私が彼を小料理屋へつれて行く。どうせ私の行く店だから、最も安直な店であるのに、彼はどうしても店になじめず、
「オレは、高級な店はキライだ。オレは、然し、たゞ酒をのめばいゝ、と
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