ーは下賤な職業だ、と、ひどく憎んで、ニベもなく断りつゞけていたようである。知らない土地の交番では必ず咎められる乞食の風采をして、然し、彼の魂は変テコリンに高かった。
 空襲のころ、神保町の古本屋を歩いていると、何年ぶりかで、三平に会った。ボロ/\のユカタをきて、尻をハショッて、ワラジをはいていた。それが彼の防空服装であった。戦争中も新橋のコップ酒屋に優先行列していたようだが、酒の乏しさに、疲労している様子であった。これが三平に会った最後で、終戦前後に死んだ由である。
 三平は女ギライであった。酔ったあとに、私が女を買いに行こうとすると、女は不潔じゃないですか、とブツブツこぼしながら、諦めて私と別れるのであった。
「先生、旅にでようよ」
 三平は、しきりに私を旅に誘った。真剣な眼つきであった。
「一文も、金はいらないよ。オレは、なんべんも、旅にでたんだ。村々の木賃宿に泊るんだ。オレが、役場や、学校や、会社を廻って、似顔絵をかいてくるからネ。東京は、不潔だよ。物質慾、物をもつ根性が、オレはキライなんだ。女をもつのも、金をもつのも、着物をもつのも、オレはキライだ。旅にでると、オレの言うことが
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