人形が踊るような、両手を盲が歩くように前へつきのばし、ピョン/\と跳ねるような不思議な千鳥足となり、あげくに吐いて、つぶれてしまう。殆んど食事をとらず、アルコールで生きているようなもので、そのくせ一時に大量は無理のようで、衰弱しきっていたのである。
 三平はバーを廻って酔客の似顔絵をかく。ノミシロを稼ぐと、さッさと、やめる。必要のノミシロ以上は決して仕事をしなかったが、人が困っているのを見ると、一稼ぎして、人にくれてやることは時々あった。夏冬一枚のボロ服だけしかなかったが、私を訪ねてくる時には、失礼だから、と、秋の頃にもユカタをきてくる。このユカタは肩がほころびて、もげそうに垂れ、帯の代りにヒモをまいているのであった。ボロ服の方が、どれだけ、人並みだか分らない。然し三平はそうとは知らず、なんしろ、高級な下宿だからネ、先生のコケンにかゝわるといけねえから、このキモノをきてくるんだ、オレは高級はキュークツで、きらいなんだ、と言っていた。
 三平は最低の生活にみち足りていた。彼の姉が、松戸に、女給が二十人ちかくもいる大きなカフェーをやっていて、三平に支配人をやれと頻りにすすめていたが、カフェ
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