いうんじゃないよ。高級らしいものほど、オレにとっては、みすぼらしい、ということなんだ。高級は不潔だよ。人間らしくないんだ」
話の筋が通るうちはいゝけれども、酔っ払うと、こんな店はキライだ、と怒りだして、店のオヤジと喧嘩になって、追いだされてしまう。
私はもとより、三平の云う素朴なふるさとに安住できるものではない。然し、三平と一しょに村々の木賃宿を泊り歩いてみようかと思うことは時々あった。どうしても、それが出来なかったのは、それぐらいのケチな逃げ方をするぐらいなら、死ぬがよい、という声をいつも耳にしていたからだ。
偉そうに、ほざいてみても、だらしがないものだ。私は矢田津世子と別れて以来、自分で意志したわけではなく、いつとはなしに、死の翳が身にしみついていることを見出すようになっていた。今日、死んでもよい。明日、死んでもよい。いつでも死ねるのであった。
こうハッキリと身にしみついた死の翳を見るのは、切ないものである。暗いのだ。自殺の虚勢というような威勢のよいところはミジンもなく、なんのことだ、オレはこれだけの人間なんだ、という絶望があるだけであった。
その年の春さきに、牧野信一が
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