つた奴でございます」とか「かう言ひながら蔭で赤い舌をペロリと出しました」などゝ実に心易いもので、私がちやんと見てきたのだから、文句は言はずに、信用しなさい、といふ立前《たてまえ》なのである。
小説の技法に大切なのは、事実性、説得力といふもので、之には色々の技術がある。或ひは作者の感傷に托して事実性を維持しようとしたり、こくめいな描写によつて実感を盛り上げようとしたり、様々だ。各々、作者その人の身についた技法があるから、良し悪しは一概に言はれぬことで、自分の方法を身につけることが第一であらう。
僕が講談の方法を面白いと思つたのは、之又僕流の考へ方で、僕はそれで良いのだと思つてゐる。
講談の語り方、私が見てきたことだから信用しなさい、といふ語り方によると、第一、目が物の本質から離れず、小さなことに意を用ひる必要がないといふ、大変手数の省略があり、この省略は、手数を省くばかりでなく、テーマをはつきりさせる。
我々に必要なのは語り方ではなくて、何事を語つたか、といふことであるが、語り方がなければ、語られる物はなく、語り方が変れば、語られる物も変る。語つてゐるやうにしか考へられず、又、事
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