しいものだけれども、我々は、どこから何を学びとっても、値打には変りがない。
 講談は自分が歴史を見てきたように語っている。「まことに困った奴でございます」とか「こう言いながら蔭で赤い舌をペロリと出しました」などと実に心易いもので、私がちゃんと見てきたのだから、文句は言わずに、信用しなさい、という立前なのである。
 小説の技法に大切なのは、事実性、説得力というもので、之には色々の技術がある。或いは作者の感傷に托して事実性を維持しようとしたり、こくめいな描写によって実感を盛り上げようとしたり、様々だ。各※[#二の字点、1−2−22]、作者その人の身についた技法があるから、良し悪しは一概に言われぬことで、自分の方法を身につけることが第一であろう。
 僕が講談の方法を面白いと思ったのは、之又僕流の考え方で、僕はそれで良いのだと思っている。
 講談の語り方、私が見てきたことだから信用しなさい、という語り方によると、第一、目が物が本質から離れず、小さなことに意を用いる必要がないという、大変手数の省略があり、この省略は、手数を省くばかりでなく、テーマをはっきりさせる。
 我々に必要なのは語り方ではな
前へ 次へ
全5ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング