講談先生
坂口安吾

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 僕は天性模倣癖旺盛で、忽ち人の感化を受けてしまう。だから、人の影響はのべつ受けてばかりいて、数えあげればキリがない。けれども、この人には負けたくない、というような敵意を持つ場合もあるもので、この人の作品を読むと惹きこまれるから、もう読むまいと決心するようなこともあった。これが本当の影響を与えた人かも知れないが、こういう本当の書斎の中へは他人を入れたくないから、僕は語らない。

 僕は今書いている歴史小説に、かなり多く「講談」から学んだ技法をとりいれている。講談の技法を小説にとりいれたら、と考えたのは十年ぐらい昔からのことで、それは、フランス・写実派の技法が、僕の観念とどこかしら食い違うところから、なんとなく心を惹かれ始めたのである。
 写実、つまり、文字で描くということは、トリビヤリズムに堕し易く、思うことの中心を逸することが多い。小説は元来
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