きいたものだ。武士は額の傷を恥じる。支那で面子《メンツ》というな。顔が立つ立たないとは昔からきいているが、当世の女流はお尻で顔を立てるのかい」
「そんなことは知りませんが、弟や妹を養って行かなければなりませんから、ショーバイはやめられません。まして御近所の人たちはパンスケ、パンスケって、人の顔をジロジロ睨むんですから、こんな意地の悪い人たちのところへお嫁入りなんてできません」
「それは、もっともだ。しかし、吾吉と結婚したくないのは、吾吉がキライのせいではなくて、お前さんの意地のせいだね」
「いゝえ。吾吉もキライですよ。好きならタダでも遊んでやります。キライだから、お小遣いだの買い物だのとセビッてやったんじゃありませんか。あの人ッたら、お前に三十万もつぎこんだんだから結婚しておくれ、なんて、イヤな言い方ッたら、ありゃしないわ」
「なるほど。一々、もっともだ。漬物屋へお嫁に行っても、お前さんたち家族は不幸せになるばかりだし、先方も大いに不幸せになることだろう。万事拙僧が見とゞけたから、パンパンに精をいれてはげむがよい」
 和尚は立ち帰って吾吉に引導をわたした。
「畜生。あのアマ、そんなこと
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