たのであった。
 吾吉のたのみを受けたので、ソノ子を訪ねると、弟妹は学校へ行ったあと、男靴が一足あって、誰か押入れへ隠れた様子である。
「これよ。出て来なさい。まんざら鼠ではないようだ。隠れることはない。人が隠れてきいていては、思うように話もできない。オヤジがお尻をヒッパタいて悶死したからには、男が遊びに来て泊っていても不思議はないさ」
 ソノ子はうつむいている。和尚が立ち上って押入れをあけると、若い男がちぢこまって坐って、これも、うなだれている。観念して、這いだしてきた。
「ま、そこへ坐っていなさい。色ごとの邪魔をして、相済まんことじゃ」
 和尚はトンチャクしなかった。
「実はな、漬物屋の倅《せがれ》にたのまれてきたが、あれはお前にゾッコン惚れているそうだ。お前がよければ結婚したいと云っているが、そちらの都合はどうだね」
「こちらは、都合がわるい」
「イヤにハッキリ物を言う子だね。お前さんは不都合かい」
「私もお父さんにお尻をヒッパタかれて、そのせいでお父さんが寿命をちゞめたからには、意地でもパンパンで一生を通さなければなりません。通してみせます」
「これは、ちかごろ、勇ましいことを
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