ら、死ぬる気持がなかったのだな、悪党めが!」
 和尚はソノ子を投げ落すと、うしろをまくりあげて、ズロースをひきはいだ。まッしろなお尻が現れた。
「これだ。これだ。このヤツだ」
 和尚は気違いのようだった。お尻をきりもなくヒッパタいているのである。巡査が和尚を遠ざけるのに一苦労したのである。
 和尚の行動は、人々には、疑惑をまねかずにすんだ。ソノ子の死んだ父親が果すべきセッカンを、和尚が代ってやったゞけのことだと思われたからである。
 和尚は然し、一つの闘争でもあったのだろう。そのくせ、和尚はそれによって一向に救われなかった。
 結論として云えば、吾吉の亡魂がかねての宿願を果してソノ子を坊主頭にしたという一つの成就があるだけであった。
 髪の毛は一年もたてば生えるものだ。ソノ子は全然こまらなかった。そして、もう、これから先は心中などせずに、ウスノロを徹底的にしぼッて苦しめてやろうと決心したゞけのことであった。



底本:「坂口安吾全集 08」筑摩書房
   1998(平成10)年9月20日初版第1刷発行
底本の親本:「オール読物」
   1949(昭和24)年9月1日発行
初出:「オー
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