し、よし。それなら、骨壺を預りましょう。本堂へかざって、三七日ほど、ねんごろに読経してあげよう」
和尚は仕方がないから骨壺をひきとった。さもないと出向いてお経をあげなければいけない。本堂にひきとって飾っておくぶんには、ほッたらかしておいても、誰にも分らない。
そのうちに、ソノ子が行雲流水から戻ってきたから、本堂へよんだ。
「実はな。お前の留守中に吾吉がクビをくくって死んだよ」
「そうですってね。死神に憑かれたんでしょう。そんな男、たくさん、いてよ」
「漬物屋のオカミサンが怒鳴りこみやしなかったかい」
「まだ来ませんけど、今さら、仕様がないじゃありませんか」
「それもそうだが、吾吉はお前に使った三十万円が心残りだそうでな。骨壺が深夜になるとガタガタ騒ぐ。おかしいというので、あけて調べてみると、前歯に三十という字が浮きでゝいるのだよ。三十万円で浮かばれないというワケだ。それ、そこにあるのが吾吉の骨だから、拝んでやりなさい。回向《えこう》になるよ」
「私はイヤです。拝むなんて」
ソノ子は怒った。
「おとなしく死んだんなら拝んでもやりますけど、私に恨みを残して死んだなんて、ケチな根性たら
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