峠へ向かつたり、歩いてゐる。私はオプチミストではなかつた。然し、オプチミストになつたのだ。そして、オプチミストになり得たことを今は、ともかく、最も誇る。私は更にオプチミストにならなければならず、そしてオプチミストたることを、真実誇る。そのオプチミズムを批評家は笑ふが、真実絶望を知らざる者に、オプチミズムは分らぬ。私は更に偉大なオプチミストとなる為に、多くの影を墓に埋めて行くであらう。あらゆる墓がインチキで、形ばかりで、嘘いつはり、毒にまみれて、常に馬脚をバクロしつづけてゐるであらう。
 私はもはや、あらゆる私のインチキな墓を人前にさらすことを怖れない。その如くに、私はオプチミストたり得た。そして私は、敢て怖れげもなく、この小説をイケニヘに、人間の神殿にささげる。神々よ、無味乾燥、水よりも空虚な毒血の中に、哀れな小さな男の悪戦苦闘、思ひあがりが、おのづから諧謔をなしてゐる悲しさを憐れみたまへ。私は今なほ、ただ一行の諧謔にすぎぬ小さな哀れな人間であります。私の埒もない空疎な毒血をふくむ神々の口に、せめて一片の苦笑なりとも刻まれんことを。
 私の小説は、虚しく、然し、常に絶望を踏んで立上るた
前へ 次へ
全11ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング