。
「いつたい、君が大いに啖呵を切つたといふのは、ほんとうの話かね?」
「それはほんとうの話さ。一座の連中をすつかり慄へ上らして来たよ。尤も腹の中では、僕は大いにいたづらな気持だつたがね……」
と、龍然は例の至極あたりまへな顔付に、それでも少し苦笑を浮べて、あああああ……と奇声をたてながら実にだらしなく欠伸《あくび》をした。
ところがその翌日、意外千万な出来事が起つた。事件そのものが甚だ意外であつたばかりでなく、事件の原因をなしたところのものが実に奇想天外――いや、これも亦凡太の意識内に於ける不屈な好奇心の説明であるが、とにかく奇抜千万であつたために、凡太はひどく奇異を感じた。即ち、龍然は通夜の席上で実際憤然として悲憤慷慨の演説を試みたばかりではない、しかも屡々過激な言辞を弄して資本主義ならびにブルヂョアを攻撃したといふのである。勿論それは、相手が県内でも有数な勢力家であるために、針小棒大に誣告《ぶこく》して司直の手を煩はしたことかも知れない。しかしとにかく、厳めしい佩剣《はいけん》の音が翌日山門を潜つたのは事実で、それは村の駐在巡査が一人の高等係を案内して寺を訪れたのであつた。高
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